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相談員から一言 バックナンバー

『医薬品安全性のリスクコミュニケーションに関する提言』

 前回の「相談員から一言」で医薬品のリスクコミュニケーションを取り上げたが、今回はその続編として、私が研究代表者として担当させていただいている厚生労働科学研究(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)「国民および医療関係者との副作用情報にかかるリスクコミュニケーション方策に関する調査研究:副作用の効果的な情報伝達手法の検討」(平成21~23年度)を紹介させていただきたい。

 研究班では、昨年度の最終報告書の中で,医薬品安全に関する行政機関と国民のリスクコミュニケーション(以下,リスコミとする)の現状と課題,今後の方向性の提言(「医薬品安全性のリスクコミュニケーションに関する提言」)をまとめた。その報告書全体にわたって常に底流としてある考え方(通奏低音)は以下である。
 
 『…医薬品および医療機器(以下、医薬品)における安全対策情報のリスコミに関する諸課題については、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」最終提言においても指摘されており、喫緊の課題となっている。
 医薬品のベネフィットとリスクとのバランスについては、「国民、患者」(以下患者)に対して、科学的不確実性を考慮した十分なリスコミ、すなわち患者の健全な「医療決定」における「説明」と「関与」の一層の進展が必要である。さらに、提供される安全対策情報の「透明性」と「信頼性」が担保されるべきである。
 なお、情報が適切に共有されない場合、その改善に向けての課題は情報提供側にあるとする考えは尊重すべきである。
 このような患者参加の対話型医療(Shared Decision Making)の実現を目指すことで、未来に向けて、社会における医薬品への信頼性を向上させ、安全で満足度の高い医療システムの実現が期待される。…』
 
 このリスコミの考え方については、医薬品安全性領域のみならず、食品安全性領域、原子力安全性領域など広範な領域で共有しうる。また、産業保健分野でも、早くから、化学物質安全性領域(GHS、MSDSなど)において、このリスコミの考え方が積極的に取り入れられ、リスクアセスメント、リスクマネージメントとともに職域で実践されている。
 
 今回の提言内容は、領域が異なっても普遍性を有し、産業保健分野にも展開が可能であり、産業保健医療職のご参考になる部分も多く含まれていると考える。
 以下に、提言内容の骨子だけ(紙面の関係上)列挙した。(これらの骨子の具体的詳細とその解説版については、厚生労働科学研究成果データベース閲覧システムにて順次収載される予定の本研究班平成23年度報告書をご覧いただけましたら幸甚です。 厚生労働科学研究成果データベース
 
提  言
1.「医薬品医療機器情報提供ホームページ」(以下、「同ホームページ」)の利活用の進展
1-1.「医療関係者」の利活用促進
1-2.「国民・患者」の認知および利活用促進
1-3.システム構築における改善
1-4.医薬品安全対策情報の「国民・患者」との共有化
1-5.承認情報から安全性情報までの連続性(シームレスな流れ)
2.患者向医薬品ガイド
2-1.「国民・患者」の認知及び利活用促進
2-2.位置づけおよび配布計画
2-3.作成対象範囲の拡大
2-4.フォーマットの再検討
3.医薬品安全対策における「国民・患者」の関与
3-1.「国民・患者」の関与のしくみ
3-2.ユーザーテストの導入
3-3.患者団体の選択手順の策定
3-4.患者団体への学び支援
4.医薬品リスク管理計画におけるリスクコミュニケーション
4-1.「医薬品に関する評価中のリスク等の情報」の透明性確保
4-2.厚生労働省、PMDAにおけるコミュニケーション部局の創設
4-3.医薬品安全対策におけるクライシスコミュニケーション
4-4.医薬品安全対策におけるリスコミ方策の適正な予算措置
 
(文責)相談員  杉森 裕樹
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