本文へ移動

相談員から一言 バックナンバー

『過去の遺産とどう向き合うか』

 最近気になっていることが幾つかある。列挙すれば、水俣病発生原因となった企業の分社化、東京都築地市場の移転、神岡鉱業所の信頼回復に40年、Li電池、クローン犬、iPS細胞・ES細胞等々、過去の遺産あるいは日々新たに生じる課題に産業医・産業衛生学者・産業保健担当者がどう関わるかに関心が持たれるところだ。
 
 イタイイタイ病の発生源となった三井金属鉱業神岡錆錬所から神岡鉱業所になった社長によれば、2008年はイタイイタイ病を国が公害病と認めて40年、それを記念して被害者団体が開いた記念集会に招かれた由。公害発生原因企業の代表がこのような集会に招かれて話すのは初とのこと。錆錬による排水中のカドミウムが神通川を汚染し、下流で米や飲料水を摂取した住民が被害を受け、イタイイタイ病が発生した。1975年会社の敗訴が確定した後賠償とともに汚染した農地を復元するとともに公害防止協定を結び、被害者団体は立ち入り調査や資料の提供を求めることが出来、施設の拡充や変更の際も協議するなど、企業活動に強い制約が課された。「神通川の重金属濃度を自然界レベルに戻し、これを維持する」とした確認書を被害者団体と結んだ。坑内水は発生源で清水と濁水に完全分離し、公害の工場用水を含めて排水管理センターで全量処理する。処理施設のトラブルに備え、予備の緊急大型貯水槽を設置するなど、排煙対策等を含めて公害防止に必要な費用(185億円)を投資した。被害者団体の皆さんから「信頼」という贈り物をもらったと思った。地球環境ブームに上滑りすることなく、環境保全を事業の基盤にすえてやっていきたい、と投稿している。信頼回復まで40年と口では簡単に言えるが、その間の努力は企業の姿勢でもある。一方で、分社化して、できれば冠となっている企業名を除きたいとする意向を示している筋を考えると、その対応の違いに驚く。
 
 東京都築地市場の江東区豊洲地区への移転問題も土壌汚染問題を無視するわけにはいかないだろう。数値の持つ意味を考えればベンツピレン115倍といったような数値が後出しされることは決して許されることではなかろう。広いスペースの一部から試料を採取して数値を求めなければならないことは十分理解できるところだが、数値を出すことへの配慮が足りなかったのではないか。もちろん、ベンゼン、シアン化合物、鉛、ヒ素の数値にもいえることだ。東京都小松川、群馬県安中、三重県四日市、山口県宇部、過去の遺産を挙げれば際限がない。いずれもそれなりに対応してきたのも事実であろう。
 
 右肩上がりの成長が期待できないなかで、新たな産業の展開が求められる。例えば、各領域での利用が進んでいるリチウム電池、リチウムの毒性研究はとなると少し気がかりである。(ACGHIが勧告している許容濃度は水素化リチウムについて0.025mg/m3)
 
 クローン犬のニュースは少なからずショックを受けた。家族同様に育てた犬が死んだあと再び同じ犬をそばにおけることの意味は何か。本人次第と割り切ればいいことだろうがiPS細胞の医学領域での利用の今後の展開とともに産業医学領域のメンバーとしても注視していきたい。
 
相談員(産業医学)中明 賢二
TOPへ戻る