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相談員から一言 バックナンバー

『変化への適応』

 多くの企業で健康管理室を利用する社員が増えている印象を受ける。バブルが崩壊した後にも、リストラや将来への不安を抱えて来室する社員が増加したが、昨年秋以降の増加には他の理由がある様にも感じられる。
 
 相談者に共通していることの一つは、自分の仕事の仕方を変えられないことである。経費削減のために残業を厳しく制限する企業が増加している。製造の現場では「生産の減少」は「労働時間の短縮」に直結しているが、間接部門では必ずしも仕事量が減っている訳ではない。
 
 派遣社員が居なくなったり、60歳以上の社員が退職することによって、正社員の仕事が増えている場合もある。この様な状況では、残業して時間をかけて成果を上げてきた社員の仕事の仕方が問題になってくる。限られた時間の中で今までと同程度あるいはそれ以上の仕事をこなすためには、密度の濃い仕事をするか、仕事を効率化するしかないが、ほとんどの人が「時間をかけて解決する方法」を変えることができていない。このため、消化しきれない仕事が徐々に増加し、精神的に不安定になる社員も出てきている。
 
 もう一つの共通点は、会社の中での自分の立場や役割の変化にうまく適応できていないことである。入社後の数年間は上司や先輩の指示に従って業務を担当する。その後は、入社年数が増えるにしたがって徐々に「指導」や「とりまとめ」、「管理」という仕事が増加していく。しかし、この様な立場や役割の変化を社員本人が自覚していないことが多く、企業側もきちんとした教育をしていない様に思われる。小学生の頃を思い出してみると、自分が1年生で入学した時の6年生はすごく大きな存在だったと思う。しかし、実際に自分が6年生になってみると、1年生の時に感じていた「大きな存在になった」という自覚はほとんどなかったと思う。会社の中でも全く同じことが言える。入社して10~15年経った時、自分が新入社員で入った時の15年上の先輩の様な大きな存在になったとは自覚していないと思われる。しかし、後輩から見ればすでに「大先輩」であり、会社の中では管理職でなくてもある程度の管理的な仕事が要求されてくる。多くの社員はこの変化をあまり意識することなく受け入れているのだと思うが、中には「管理職でもない自分が何でやらなくてはいけないのか?」と疑問に感じたり、逆に意識しすぎて後輩との関係がギクシャクしたり、負担に感じて相談に来る場合もある。自分の変化にはなかなか気が付かないものだが、企業側が5年・10年・15年といった節目研修をきちんと行い、社員の自覚を促す必要がある様に思う。
 
  企業の中では、常に色々な変化が起きている。激動の時代に対応していくためには必要な変化だと思うが、この変化にうまくついていけない社員が居ることを認識し、適切に対応していくことが必要だと思われる。
 
相談員(産業医学)新津谷真人
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