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相談員から一言 バックナンバー

『健康ブームー今昔』

 これだけ科学や医学が進歩した現在でも、確実にいえることはひとつ。「ヒトは100%死ぬ」、ということである。古来よりヒトは不老長寿を夢み、物質を求めたり、方法を求めてきた。日本の近代でいえば、何かをひかえて、維持を主眼においた「養生」、代表的な貝原益軒の「養生訓」から、何かを努力することによる「健康」へと変遷してきたのである。
 
 また近年我々は、膨大な健康情報にさらされている。なかでもテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどである。テレビではみのもんた症候群といわれるような「午後は○○おもいっきりテレビ」、「おもいっきりイイ!!テレビ」、「ためしてガッテン」、「最終警告!たけしのほんとうは怖い家庭の医学」、「発掘!あるある大辞典」、「NHKきょうの健康」などである。自分自身でも「大食い選手権」を見た後「ダイエット」番組を続けて見ている始末。テレビCMでは頭の良くなるDHA(イワシはそんなに頭良かったっけ?)、コンドロイチン、ヒアルロンサン、美白、美肌、「…が気になる方へ」という健康食品。将来は飛び跳ねている老人、美人のおばあさんがさぞたくさん存在することでしょう。
 
 書店の健康コーナーに行ってみてください。死ぬまでにはとても読み切れない書籍、雑誌が並んでいる。雑誌では「暮らしと健康」、「毎日ライフ」、「安心」、「わかさ」、「壮快」、「だいじょうぶ」、「ゆほびか」、「健康365」、「はつらつ元気」などなど。見出しだけ読んでも「医者不要!」。
 
 健康器具で思い出すのは、1972年「どうぞワタシに電話してくーださーい」と社長が宣伝していた「スタイリー」、1976年「ルームランナー」、1978年「ぶら下がり健康器」である。小生の所属する企業では各営業店食堂に後2者が両方鎮座していた時期がある。厚生目的であったろうが、段ボール置き場、ハンガーと化していた。1994年機器ではないが風邪でもひきそうな「脱パンツ健康法」、2000年「ボディーブレード」、2006年「乗馬型フィットネス機器」、2007年テレビを見ているだけで動悸・息切れしそうな「ビリーズブートキャンプ」が爆発的な売れ行きだった。
 
 健康食品関係では、1991年に保健機能食品制度が定められ、特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品があり、健康食品から保健機能食品を除いたものを、「いわゆる健康食品」と表現される。小生の記憶にあるところでは、食品ではないが1974年に「紅茶キノコ健康法」なるもの、母が得体の知れないこれを作っていた。息子が医学生なのだからやめてほしいと懇願したことを思い出す。1992年「やせるリンゴダイエット」、1994年「ケフィア(ヨーグルトきのこ)」、1995年「ココア」が大ブーム、同年アガリスクブームが始まる(後に一部に発癌性ありと問題になる)。1996年「臭いを体内から消す内服防臭剤」。1997年「赤ワインブーム」、2000年に「海洋深層水」、「黒ごま」が人気。2004年「コエンザイムQ10」大ブーム、「黒酢」人気、2005年「寒天ダイエット」、2007年「納豆ダイエット」。2008年「朝バナナダイエット」などなどである。
 
 最後にドリンク剤等について書いておく。最近、夕方のとある喫煙コーナー。30代前半とおぼしき美人のキャリアウーマン(風)の女性が一人。携帯電話で仕事の話をしながら一服、その後バックからドリンク剤を取り出しグビッと飲み干し、気合いを入れて颯爽と去る。一昔前の企業戦士のオジサンそのものを見てしまった。時間とは恐ろしいものである。さて、ドリンク剤を振り返ってみると、1957年「ベルベ内服液」に始まる。1960年「グロンサン内服液」、1962年「リポビタンD」、「新グロモント」、1963年「エスカップ」、1964年東京オリンピックの年に「チオビタドリンク」、翌1965年に「オロナミンC」と続く。1967年「ユンケル黄帝液」、1975年には「チカレタビー」、「ガンバンベー」で有名な「新グロモント」がヒット。1980年日本のスポーツドリンクの先駆、「ポカリスエット」が発売、青い色彩の缶は常識を覆す色使いだったとか。バブル絶頂期1988年、「リゲイン」、「24時間戦えますか?」なーんて、まだ過重労働対策などない時代だったのだ。ドリンク剤を飲む姿をみていると団塊世代の私には「ポパイには、ほうれん草の缶詰!」に見えてしまう。2007年のドリンク剤、ミニドリンク剤市場は2000億円だそうである。
 
 世の中「健康ブーム」ということは、「健康不安・ストレスの蔓延」の裏返し、「豊かさ」の裏返しなのであろう。世間には「酒も飲まず、タバコも吸わず、定期的に運動し、抗菌グッズにまみれ、マスクを常時着用し、健康のためなら命も惜しくない!」などとおっしゃる御仁(健康強迫症)もおられるとか。小生はそうなりたくないなー!さて小生は、団塊世代ゆえ「50、80喜んで!」に電話して、5年後のデイケアを予約して、うまい酒でも飲んで早く寝るとしよう。
 
相談員(産業医学) 能勢俊一
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