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相談員から一言 バックナンバー

『労働衛生と省エネ』

 新政権を担う鳩山首相は、温暖化ガス削減の中期目標を1990年レベルから25%削減という数値を公表しました。地球温暖化は、気候変動に伴って社会に多くの問題をもたらします。ここで労働衛生の業務の中で省エネに寄与できることがあるかどうかを主として事務所の作業環境について探ってみます。
 
1.換気に伴うエネルギー損失
 
 安衛法の事務所則では、換気に関して事務所内の二酸化炭素濃度が5000ppm以下と定められています。また、いわゆるビル管法では延べ床面積が3000m2以上の事務所ビルでは1000ppm以下と規定されています。外気中の二酸化炭素濃度は300~400ppmですから、換気が良い事務所ではこの外気の濃度に近付きます。事務所等の作業環境測定の結果では500~700ppmmのところが多く見受けられ、この結果からすると換気のし過ぎと思われます。折角冷房や暖房した空気を外に排出してしまっています。そこで換気扇を間歇運転したり、外気取り入れダンパーの開度を調整して1000pppmに近づけることによりかなりの省エネになります。
 新しいビルでは全熱交換器といわれる装置が外気の取り出入口に設置してあります。排気する空気中の熱を取入れる空気が回収して排気に伴う熱損失を低減しています。そこでは排気する空気中の50%~60%のエネルギーが回収できます。また、この装置は温度だけでなく湿気についても回収します。夏季の除湿した空気や冬季の加湿した空気を排気するときに湿度を回収し、除湿や加湿のエネルギーの損失を防ぎます。このような装置を設置するによりビル等の省エネが図れることになます。
 一方、室内にたばこの煙や臭気等が混入している場合には、十分に換気し、身体に良い空気にする必要があります。
 
2.室温について
 
 事務所則では、空気調和設備を設けている場合は、部屋の気温が17℃以上28℃以下及び相対湿度が40%以上70%以下になるよう努めなければならないと定めています。都市のビルでは室温の設定を25℃から27℃にしているところが多いようです。一般に温度の設定は、空調の設置器の温度と思われていますが、温度センサーのある場所の温度を調整しています。冷房中のクーラーの室内機から吹き出す空気の温度が設定温度になっているのではなく、吹き出す温度はかなり低い温度です。事務所の中の温度を測定すると天井、壁、床ではかなり温度差が生じています。冬季には天井と床では5℃も差があることが多いのです。空調設定器の温度は室内機のリターン空気の取入れ口である場合が多く、天井の温度に近い値でクーラーが温度を制御しますので、足元の温度が低くなる場合が多いと思われます。部屋の中でもクーラーの吹出し口の近い席と遠い席、または窓際の席と奥の席でも温度差がかなり生じます。扇風機やサーキュレータで空気を攪拌すると室内の温度が均一になり、設定温度に近づきます。このように室温を均一にすることで、適切な温度設定が行えるので、無駄な空調エネルギーを削減できます。
 空調の設定温度を1℃緩和すると空調の動力は約10%減少すると言われています。事務所のエネルギーのうち空調に使われる割合は全体の39%という資料があります。温度設定を1℃緩和すると使用エネルギー全体の4%の省エネが図れることになります。夏季に空調を入れると快適に感じられるのは温度ばかりではなく、湿度が低くなるためでもあります。しかし、夏季に本格的に除湿調整をするには一度温度を下げて再度温度を上げて適切な湿度に調整するため、多くのエネルギーを使用します。
 これから冬に向かい部屋を暖房しますが、電熱器を使うよりクーラーで暖房する方が電気の使用量が数倍省エネになります。電熱器では電気エネルギーを100%熱に変えますが、クーラーは消費する電力の数倍の熱を発生します。この倍率をCOPといっています。最近のクーラーはCOPが5以上のものもあります。
 
3.照明について
 
 暗い作業場での災害の発生を防ぐためには照度を上げる必要があります。不必要に明るくすると電力の使用量が増加しますので、適切な照度に管理し、快適に作業すると省エネも図れます。省エネのためとして、廊下の照明をすっかり消しているところが見受けられることがありますが、これは行き過ぎで、安衛法で定める照度を満足できないことになります。
 安衛法では精密な作業は300ルックス(以下Lx)以上、普通の作業は150Lx以上、粗な作業は70Lx以上と定めています。一方、JIS Z 9110 照度基準では、事務所(b)300Lx~750Lx、特に細かい視作業をと伴う場合、事務所(a)750Lx~500Lxです。工場の場合、細かい組立や検査作業 750Lx~1500Lx、一般の製造工程は300Lx~750Lx、細かい梱包、機械室等の粗な作業150Lx~300Lx、通路、廊下、荷造り場等は75Lx~300Lxです。
 VDT作業等では厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」がり、ディスプレイの画面上の照度は300Lx~500Lxを推奨しています。ディスプレイの画面上の明るさと書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすることとしています。明る過ぎると却って眼に負担が掛りますので、ガイドラインに従った適切な照明が必要です。この場合は蛍光灯の灯数を減らす等して調整します。
 窓際の席では、晴れた日の午後は西日により照度が2000Lxを超えているような場合があります。ブラインドを下ろして、明るさを調整するとともに、太陽光の熱を遮断して室温が局部的に上昇するのを防ぎます。
 
 多くの事業所で快適な職場の環境を形成するとともに、小さなことにも気を配り常に省エネに心掛け、地球温暖化対策に寄与したいものです。
 
(文責)相談員 鶴岡 寛治
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