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相談員から一言 バックナンバー

『化学物質のリスクアセスメントについて』

 リスクアセスメントについては平成12年3月の「化学物質等による労働者の健康障害を防止するため必要な措置に関する指針」にさかのぼりますが、平成18年3月には有害性に加えて危険性も含めるなど適用範囲を拡大して「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」が示され、平成18年4月1日から適用されています。
 
 さて、皆さんもご承知の通り、化学物質は現在5万7000種以上が使用されていると言われております。このうち、安衛法57条の2で有害性等の情報の提供(化学物質等安全データシート(MSDS))を義務付けているのは640物質、作業環境測定の対象はたかだか約100物質となっています。リスクアセスメントはすべての化学物質が対象です。
 
 リスクアセスメントはまず、化学物質の有害性(ハザード)を特定し、その有害性について毒性試験データによる量反応関係からリスクが許容されるばく露量を求め、実際の作業における作業者のばく露量と比較し、ばく露量が許容されるか否かを判断すること、すなわちリスク評価をすることです。さらに、リスク評価の結果を踏まえてリスク低減対策を実施していくのがリスク管理と言われております。この中で作業者のばく露量には通常、ばく露濃度が用いられ、このばく露濃度は各事業場における作業について測定する必要があります。
 
 ばく露量の把握方法としては、日本で定期的に実施されている作業環境測定結果を利用することが最も身近な方法です。この場合のばく露濃度の推定は、作業場内の平均的なばく露を推定するA測定値をばく露濃度とすることができます。また、移動・固定・間欠作業など発生源近くの高濃度ばく露を把握するB測定値をばく露濃度とすることもできます。個人ばく露濃度測定は、欧米を中心に繁用されている方法であり、作業者の襟元付近に個人サンプラーを装着してばく露濃度を測定する方法で、直接、時間荷重平均濃度(TWA)を測定することが可能です。粒子状や気体状の多くはポンプを作業者が装着しなければならず作業者への負担が問題となりますが、有機溶剤などのガス状物質ついてはポンプを使用しない拡散型サンプラーが市販されていますので比較的容易に測定が可能です。生物学的モニタリングは、作業者の尿や血液、呼気中の有害物またはその代謝物の濃度を測定することによりばく露量を推定する方法であり、保護具の効果も含めたばく露量の把握ができることが大きな利点でありますが、測定対象物質が少ないのが難点です。また、尿や血液中の試料は、飲食物の影響等も考慮しておく必要があるとともに、試料採取に際しては生物学的半減期や採取時の汚染について注意を払わなければなりません。いずれにしても三者三様でばく露量の把握にはそれぞれ一長一短があります。
 
 リスク評価方法ですが、ここではばく露限界値がある場合のみにとどめておきます。ばく露限界値が設定されている場合のリスク評価は、直接測定を行ったばく露濃度(CTWA)と、許容濃度あるいはTLV等のばく露限界値と比較することで簡単にリスク評価ができます。
 
 測定した暴露濃度(CTWA)/許容濃度等の暴露限界値
 
測定値がばく露限界値以下の場合は、リスクは許容範囲内でありとみなすことができ、逆に測定値がばく露限界値を超えていれば、リスクは許容範囲内を超えているとみなし、改善措置が必要になります。
 
相談員(衛生工学) 芦田敏文
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