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相談員から一言 バックナンバー

『メタボ対策について』

 我が国では、第2次世界大戦後栄養改善の施策を取ってきましたが、その後疾病の予防や健康増進へと重点が移されてきました。
 
 昭和53年からの「第一次国民健康づくり対策」が始まり、健康診断の体制が整えられました。昭和63年からはじまる「第二次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)」では生活習慣改善の考え方が取り入れられ、この流れがさらに発展し、平成12年から「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が施行されています。
 
 健康日本21では、基本理念として寝たきりや認知症などにならない「健康寿命の延伸」などを掲げ、基本方針として一次予防を重視しています。また、これを実現するための健康づくり支援の環境整備や、生活習慣病及びその原因となる生活習慣に関して9つの分野(栄養・食生活、身体活動と運動、休養・心の健康づくり、たばこ、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病、がん)で達成すべき目標を設定しています。

 健康日本21を中心とする国民の健康づくりや疾病予防を、環境整備の面から積極的に推進する目的で、健康増進法が平成14年に制定されました。この中で、受動喫煙による健康被害の予防が述べられています。職場においても受動喫煙の防止が重要であることは言うまでもありません。現在多くのの職場では分煙化が進んでいますが、喫煙者に対する取り組みも含め、喫煙率のさらなる低下を目指し、努力する必要があります。
 
 こうした取り組みの中で、平成17年9月の厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会の「今後の生活習慣病対策の推進について」(中間とりまとめ)においては、「生活習慣病予備群の確実な抽出と保健指導の徹底が不十分」等の指摘がされました。実際に、肥満者の増加や、糖尿病予備軍の増加などが報告され、このままでは健康日本21の目標達成は困難である事が明らかとなりました。具体的な課題としては、以下の様なことが指摘されました。
 
・日常生活で意識されるための目標項目の絞り込み
・ターゲットが必ずしも明確ではなく、具体的な施策プログラムも不十分
・個人の取組を支援する社会全体としての環境整備が不十分
・生活習慣病予備群の確実な抽出と保健指導の徹底が不十分
・若年期から生涯を通じた健康管理が不十分
・科学的根拠に基づく健診・保健指導の徹底が必要
・健診・保健指導の質の更なる向上が必要
・国としての具体的な戦略やプログラムの提示が不十分
・医療保険者、市町村等の責任・役割分担が不明確
 
 そこで、今後の生活習慣病対策の基本的な流れとして、国民の健康づくりの意識の高まりを具体的な行動変容に結びつけるため、メタボリックシンドロームの概念を取り入れた対策を推進することになりました。これは、健康に関心がある人はもとより、健康に関心がない人に対しても、予防の重要性を認識してもらい、社会全体として生活習慣の改善に取り組む環境を作るためです。メタボリックシンドロームは、単に危険因子(肥満、高血圧、高脂血症、高血糖)が1人の人に集積するというだけではなく、より集積しやすいことより、根底に共通の病態、すなわち内臓肥満が存在することを重要視しています。この考え方では、個々の病気に対する治療を考えるのではなく、まず共通の病態である内臓肥満の改善を計ることが大切で、実際の指導においても食事、運動などで内臓肥満を減らす努力を求めます。
 
 このような取り組みは、40歳以上を対象とした特定健診・特定保健指導として平成20年4月より医療保険者の義務となりました。産業保健現場では、労働安全衛生法による定期健康診断を行うことが事業主の義務となっています。特定健診と定期健康診断は、その目的や根拠となる法律や実施主体などが違います。しかし、多くの事業場では定期健診と特定健診をまとめて行っています。産業保健においても過重労働対策上メタボ対策は重要な課題です。過労死は、基礎疾患(メタボリックシンドローム)を有する労働者に過重労働が加わり、血管病変が悪化し、心筋梗塞や脳卒中などを発症し、死に至るものと定義されています。従って、過労死の予防としては、作業管理としての過重労働対策と、健康管理としてのメタボ対策を同時に行う必要があります。
 
 最近ではメタボの診断基準や腹囲の妥当性が問われていますが、産業医として大切なことは、診断基準にとらわれることなく、腹囲やBMIやその他の所見の経年変化から総合的に判断し、適切な指導を行うことです。最近発表された英国でのコホート研究では、4つの健康習慣(禁煙、適正飲酒、1日30分の運動、野菜や果物を1日5品目以上摂取)を有する人は、健康習慣が0の人に比べ14年寿命が長いと報告されています。さらに、心疾患、がん、全ての原因による死亡のどれに対しても健康習慣の数と危険率が反比例することです。従って、生活習慣の変容を目指すメタボ対策は、循環器疾患のみならず、がんの予防にもつながるといえます。
 
文責(相談員) 渡辺 哲
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