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相談員から一言 バックナンバー

『脳卒中の予知と予防』

 2009年高血圧治療ガイドラインが日本高血圧学会から発表されました。この中で臨床検査項目のうち脳血管疾患発症予防のための推奨検査の一部を紹介します。

 脳梗塞の発症は基本的には血管の動脈硬化が原因で血管が細くなり血栓で詰まった状態になります。各臓器に行く栄養血管が詰まってしまうとその先の細胞は壊死に陥ってしまいます。脳の血管で起きるからこれを脳梗塞と言います。少し動脈硬化とは違いますがクモ膜下出血は脳動脈瘤が原因で破裂することにより脳出血を起こす病気です。脳出血家系がある人たちは若くても一度は脳のMRI検査および脳血管を見るためのMRA検査を受けて発症の危険性の有無を調べておく方が無難です。未破裂動脈瘤や動脈狭窄(血管が動脈硬化で細くなって梗塞を起こしそうな部分)などが見つかります。脳の画像診断により脳血管障害を引き起こしてしまう前に予知・予防を含めた治療が出来ます。隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)や若年性認知症の早期発見にもなります。例えば、脳動脈瘤が見つかれば、カテーテルを用いて動脈瘤の中に極細白金線を毛玉のように丸め血栓で固めてしまえば、これで動脈瘤は治癒してしまいます。勿論部位や形状によっては開頭手術方が良い場合もあります。血管に動脈硬化があれば進展予防ができます。動脈硬化は、目に見えないような細い血管(細小血管)の障害から始まります。その細小血管壁の内側には石畳のように敷き詰められた細胞(血管内皮細胞)があります。この内皮細胞からは血流の良くなる物質や血栓ができにくい物質が分泌されています。さらに大事な血液中の物質を血管外に漏出させない働きもあります。心臓から出た血液は太い大血管(正常の太さは約2.5cm)から次第に細くなり末梢血管(動脈 0.4cm)そして最後に細小血管(細動脈 30μm)となって各臓器に血液が流れていきます。この細くなった血管は太い血管壁にも血流を送り栄養を与えています。勿論、脳、心臓、腎臓、大血管など全身の臓器も最終的にはこの細小血管から栄養をもらっています。大血管壁にある平滑筋の栄養は外側の3分の2を細小血管から、内側3分の1は直接血液中から栄養を貰っています。高血圧症、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙(動脈硬化の危険因子)などにより、この細小血管が障害を受けると動脈硬化は始まります。大血管障害の状態の一部として実際に画像診断が出来るのが頸動脈超音波検査です。大血管の栄養血管(細小血管)が血栓や炎症を起こすと大血管の壁は傷んできてしまいます。高血圧による場合は血管内流速の増加のために血流が強く流れます。糖尿病においては、血糖値が高いほど血液粘度が高くなることで血管抵抗が増大して血管の内皮細胞にダメージを与え内細胞機能が低下します。臓器に与える血流変動を内皮細胞が敏感に察知して、血液の流れを調節する血管拡張物質、または血管収縮物質を分泌して血圧、血流を良好な状態に調節しています。且つ血栓が起きないように血小板凝集抑制物質も分泌しています。しかしこれにも限度があり内皮細胞にダメージが続くと、血管壁に炎症がおこり血小板凝集(いわゆる血栓の始まり)が生じて血管障害が起きてきます。石畳のように敷き詰められた内皮細胞は、正常の状態では互いの細胞間に隙間がないのですが、内皮細胞周囲に炎症(高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが原因)が起きてくると内皮細胞は壊れて隙間が出来てきます。その隙間から、洩れるはずのないコレステロール(脂肪の塊)が内皮細胞の外側に染み出てきます。内皮細胞のバリアを通過してしまうと生体は、これを異物として感じて、炎症反応が起きてきます。そして、内皮細胞と血管平滑筋との間の血管壁にコレステロールの塊が溜ってきます。これを「粥状(じゅくじょう)硬化(粥腫(じゅくしゅ))」と言います。炎症を伴っているので血栓も出来やすい状態になっています。これの状態を動脈硬化と一般的に言っています。粥腫(プラークとも言う)が形成してされると脂肪の塊ですから軟らかく、ここに血流が強くあたると粥腫が破綻する状態が生じます。流れが強く粥腫の一部がひび割れを起こすとそこには血栓が出来てしまいます。粥腫の一部が破綻して、?がれて末梢に流れてつまり塞栓(粥腫の一部がはがれて末梢に流れて詰まった状態)を引き起こしてしまうのです。小川のセセラギのように穏やかに流れていれば良いのですが、血流が大雨の後の濁流になったら粥腫はひと固まりもなく削られてしまいます。心臓の筋肉に栄養を与えている冠動脈で起きれば心筋梗塞、脳の血管で起きれば脳梗塞を発症します。血管内に不安定プラークが存在して濁流(強く流れる)となっていても症状が出ないのが一般的です。脳の血管は左右の連絡血管があるために完全閉塞するまで症状が出ません。プラークの破綻が来る原因は、急激な血圧上昇も関与していると考えます。
 
1. 睡眠時無呼吸症候群
2. 早朝高血圧も含めてコントロール不良な高血圧症
3. 起立性高血圧
4. 息が切れてしまうほどの強い運動、重い物を持ち上げて踏ん張っているとき(便秘で踏ん張るのも注意)
5. 腹部肥満の人が下向きに前かがみでいる状態
6. 精神的ストレス(過重労働)
7. 瞬間に力を入れる作業および各種スポーツ

血流が淀んでしまう原因
1. 心不全
2. 糖尿病
3. 脂質異常症
4. 浮腫み
5. 脱水症(下痢、嘔吐、発熱など)
6. その他(熱中症など)

 これらの疾患は実際に血管の流れを悪化させることから、早期からのプラーク治療を行うことによって破綻を予防して脳梗塞発症予防と予知が可能となります。画像診断がなされなければそれ以前の問題で医学は感にたよることも必要ですが根拠がない診療となります。そこで、危険因子がある方には特に高血圧治療ガイドラインによる推奨臨床検査(MRI・MRA・頸動脈超音波検査)を行っていきたいものです。実施には病院との連携が必要となります。
 
(文責)相談員 倉田 達明
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