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相談員から一言 バックナンバー

『化学物質などに係る表示及び文書交付制度の改善に関する事項』

2006年に施行された改正労働安全衛生法の改正ポイントの中に「化学物質などの表示・文書交付制度の改善(五七条、五七条の二.二〇〇六年一二月一日施行)」がある。化学物質を取り扱う作業において、その物質の危険性や有害性を知らずに作業を行ったために爆発、火災、中毒などの災害が多く発生したことから、事業者による適正な化学物質管理を強化していく方向性の一環である。具体的には、政令で定める危険物・有害物を譲渡や提供する場合の化学物質の表示・文書交付制度の中に、有害性だけでなく、引火性などの危険性も対象として追加した。さらに、対象物を、容器・包装に入れて譲渡・提供する場合に、表示事項として『絵表示』などが追加された点は注目に値する。
 この『絵表示』は、2003年に、人の健康確保の強化などを目的として出された国連勧告「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:GHS)」の動きに対応させたもので、化学物質などの表示及び文書交付制度の改善を図ることを目的としている。GHSでは、化学物質の危険性及び有害性を、引火性や発がん性などの約30項目に分類したうえで、危険性や有害性のレベルに応じて、ドクロや炎などの標章をつけること、化学物質など安全データシート(MSDS)などの取扱上の注意事項などを記載した文書を作成・交付することなどを決めている。
 
 
近年、欧米の医療現場で「ヘルスリテラシー」という言葉が注目されているが、これは「認知および社会生活上のスキルを意味し,良好な健康の増進または維持に必要な情報にアクセスし,理解し,そして利用していくための個人の意欲や能力(WHO Health Promotion Glossary 1998)」である。今日の医療現場では、患者が健康情報を正しく読みこなし,検査値や危険度などの数字の意味を理解することが患者サイドのリテラシースキルの向上が重要とされる。しかしながら、一方で、医療供給サイドで「絵表示」などでわかりやすく情報を提供していく試みも数多くなされてきている。(米国USPC:United States Pharmacopeial Convention Inc.や、わが国のくすりの適正使用協議会:RAD-ARの医薬品の取り扱いのピクトグラム=絵文字はその一例であるhttps://www.rad-ar.or.jp/02/08_pict/08_pict_index.html)
 
 話を産業保健に戻すが、近年の化学物質の表示・文書は複雑化しており、また日本語の理解に乏しい外国人労働者も増えている。その意味で、産業保健現場においても労働者サイドの有害性・危険性の情報を読み解く能力(リスクコミュニケーションも同じ土俵である)の向上をめざすことはもちろんであるが、事業者サイドの「絵表示」などによるわかりやすい情報提供も肝要である。労働者と事業者の間でコミュニケーションが十分になされて、化学物質が適正に取り扱われることで、一層、化学物質による労働災害が防止されることが期待される。
 
相談員(産業医学)杉森裕樹
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