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相談員から一言 バックナンバー

『リスク管理』

 2011.3.24 に発生した東日本大震災でお亡くなりになった方、被災された方々にお悔やみとお見舞いを申し上げます。同時に一刻も早い復興を願います。
 
 一方で、我々の提言してきたリスク管理の危うさを痛切に感じるこの頃です。
 
 地震・雷・火事・津波・原発と続けさまに生じたリスク。どう対処するのがよかったか、管理ができたかの答はなかなか出てこないのも事実だが、産業の場で化学物質等によるリスク管理を追求してきた者にとって、最も厳しい現実でもある。

 それぞれの現場と作業に見合った管理の在り方、現場指向型の管理が提案できていなかったという悔恨の念が残る。
 
 地震・津波の自然災害と原発事故という典型的な人災、リスク管理を唱えながら、そのもろさはかなさに悄然とせざるを得ない。如何に「机上のリスク管理」であったかを思い知る。

 一方で、国内の放射線障害研究について、自分の無知を知らされるとともに、果たして日常的に研究が継続され、その成果がオープンになっていたのかが気になっている。

 後だしジャンケンだと言われればそれまでだが、研究されていても注意されていない(?)現実をみると、どうしてという感は免れない。我々が扱う化学物質等管理も同様に無力なのだろうか。人災への管理・対応は何かあったのではとの思いは残る。
 
 原発事故の現場で何が起こっているのか、避難区域の設定など、事実に基づいた評価がなされたのか、現場が混乱する原因は、いや、現場に混乱はなく周辺が混乱しているのが現状なのだろう。

 研究者・技術者の存在の詳細は分からない。原爆が投下され、その悲惨さを体験した時以来、放射線障害に関する研究は止まったのだろうか。

現場での対応にばらつきと混乱が生じているのは、原子力あるいは放射線というある種特殊な領域に関する事象で、研究者、特に人体影響を専門にする研究者が少ないことにも原因があるのではないか。
 
 PCB、石綿などの化学物質や騒音・振動・温熱などの物理的事象の生体影響に関してはそれぞれ専門の研究者が継続的な研究を進めており、化学物質同様、許容基準の設定を行なっている。
 放射線障害についてはどうか、当然、原発で働く作業者の健康診断は行われ、線量管理も電離放射線障害防止規則による管理が行われ、産業医を中心とした健康管理も定められているだろう。

 例えそれが遠くの大学の教授先生であろうと法的に問題があるとは思えない。しかし、国内で継続的に放射線の影響研究が行われ、基準値が検討されているとは言い難い。

 原発で働く作業者の生涯線量規制はあるが、一般人の線量規制は必ずしも明確ではなく、国際的な基準ICRPの値を使わざるを得ないのが現状である。

 大気・土壌・水質・食品・子供への影響を考えれば、当然、それぞれの国内基準値があってしかるべきだろう。

 原発の安全管理は当然必要。衛生管理に年間5億円もの研究費があればもっと研究者も増え、研究も進んでいたと思うが電力供給者側の意見は如何か。
 
 先日の新聞紙面に、「学者の本業はすでに終わった事件や決定を跡づけることで、霧がはれ、資料も揃い、なにが可能で何が可能でないかがはっきりした時点での議論だから、頭がよさそうに見えるだろう。

 だが、その頭の良さは役に立たずと表裏の関係にある。現場で選択を迫られたときに学者が適切な判断を下すことができるとは考えにくい」との指摘があった(藤原帰一:2011.4.19.朝日新聞)。

 的を射た指摘と感じ入った。産業衛生に携わる者の仕事・研究は現場に出て何ぼの世界である。

 現場に役立たない研究は一文の役にも立たない。これが筆者の信条でもある。
 
 瓦礫に埋もれた現場は独特の臭気に悩まされているとのこと。待ったなしの対応」が求められる。
 
(文責)相談員  中明 賢二
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