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相談員から一言 バックナンバー

『見切り発車の危険性』

 福島第一原発の事故について内閣府原子力委員会の委員長が、事故の拡大を防止できなかった原因として当委員会が示してきた原発の安全審査の指針に不備があったことを認め、抜本的見直しを表明したが、遅きに失した感は否めない。
 
 放射性物質の健康に及ぼす影響については、世界で唯一の被爆国である日本にあっては、多くの国民がその恐ろしさを承知している。原発施設から絶対に放射性物質は漏れない、すなわち第三者が放射性物質に暴露されることはあり得ないという前提で原発の建設が推進されてきた。したがって漏れた場合の対策は不要とされ、今回のような非常事態の措置について何ら検討すらされてこなかったことが、日々報道される慌てふためいた場当たり的な対処状況から推察される。
 
 原発の建設に当たって地域住民との公聴会等で、国、自治体及び電力会社は建設ありきで一致していて、一部の専門家が放射性物質が漏れた場合の対策について質問しても、漏れることはないので必要ないとの回答に終始し、原発の安全性ばかりを強調していた。公聴会は原発の建設を容認するためのセレモニーに過ぎないと嘆いていたことを思い出す。
 
 実際に放射性物質の一部が漏出し、大気、土壌、海水、野菜などに汚染が認められてから、まず放射性物質を敷地内に封じ込める措置、さらに汚染水中の放射性物質の回収を実施する計画を推進している。フランス製の吸着除去装置、アメリカ製の沈殿分離装置を導入し、その効果を試験中であるが、これらの装置は果たして技術的に認められ、商業運転の実績があるのだろうか。

 事故後の対応の経過を見る限り、泥縄式と言わざるを得ない。なんともみっともない話で嘆かわしい。
 
 物を燃やした後に残る灰に相当する使用済み核燃料を現在青森県と茨城県の再処理工場に一時貯蔵しているが、将来高レベル放射性廃棄物最終処分場を建設し、金属容器に密封して地下300m以下の地中に埋めることになっているが、建設場所は決まっていないのが実状である。
 
 この度の原発事故は、安全対策が十分に確立されないまま原発建設を推進した見切り発車の危険性を図らずも証明したのではないか。原発に限らず産業活動や日常生活にあって、事故を絶対に起こさないようにすること、すなわち100%の安全化は極めて困難であることを認識しなければならない。
 
 事故を起こさないようにすることは当然であるが、事故が発生したときに被害が広範囲に拡大しないように、すなわち被害を最小限に食い止める対策をあらかじめ講じておかなければならない。
 
 福島原発のIAEAの事故調査団長が、閣僚級会議後の記者会見で、原発の安全性強化に関して継続的な改善への情熱を持ち、常に改善の方策を探求すべきだと指摘し、経営陣などには安全対策をもっとできるという挑戦の気持ちと能力が必要だと忠告したことを毎日新聞が報じていた。
 
 この忠告には原発に限らず産業界すべてが真摯に受け止めなければならない。安全衛生を生業とするものとして肝に銘じておきたい。
 
(文責)相談員  阿部 龍之
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