本文へ移動

相談員から一言 バックナンバー

『健康診断の項目と基準値について』

 健康診断の項目は労働安全衛生規則で規定されている(法定項目)。しかし、実際に行われている健康診断では、法定項目以外の項目が追加されていることが多い(法定外項目)。この法定外項目が加わることによって、健康管理担当者の業務が増加し、管理を複雑にしている場合がある。また、正常か異常かを判断する基準値および指導内容は、健康診断の目的や健診機関ごとに異なっているのが現状である。
 
1.法定外検査項目
1)有所見率の増加
 健康診断の項目が多くなると有所見率は高くなる傾向がある。健康診断を受けた社員は、自分が受けた検査のどれが法定項目で、どれが法定外項目なのかをほとんど把握していないため、有所見者が増えれば健康管理担当者が対応する社員が増えることになる。特に、胃X線検査、便潜血検査、PSA等のがんの検査項目が加わると、結果の説明や紹介状の作成等、法定外項目の対応者数が法定項目の対応者数よりも多くなることがある。指摘された異常所見について精密検査あるいは二次検査を受けることは良いことではあるが、脳心臓疾患の危険因子となる項目について重点的に指導することを示した「定期健康診断における有所見率の改善に向けた取組について(基発0325第1号、平成22年3月25日)」に反することになる。
 
2)事後措置
 健康診断実施後には、その結果に基づいて労働者ごとに診断区分を決定する必要がある。基本的には法定項目の結果に基づいて診断区分を決定していくことになるが、法定外項目で精密検査あるいは二次検査が必要になった場合に、会社としてどのように管理していくのか、明確になっていない場合が多いと思われる。
 
2.基準値
1)健康診断の目的の違いによる基準値の違い
 事業者が行う健康診断の目的は、就業上の配慮が必要な社員に適切に対応するための就業区分及びその内容を決定することである。これに対して、健康保険組合が実施する特定保健指導は、より早い段階から健康異常者を発見し、改善に結びつけることを目的にしている。健康診断の目的が違うので基準値が異なる項目もあるが、基準値の設定は健診機関が決めており、事業者の希望通りに基準値を変更することができない場合が多い。このため、事業場において健診機関と異なる基準値で診断区分を決めるためには、健康診断結果をデータベース化した上で再集計する必要がある。さらに、健診機関の基準値と事業場で決めた基準値が異なることを社員に周知することも必要になる。
 
2)健診機関ごとの基準値の違い
 健診機関が異なると、基準値も違ってくる。全ての労働者が同一の健診機関で健康診断を受ける場合には問題はないが、出向中に違う会社で健康診断を受ける場合や全国にある支店の結果を取り扱う場合には基準値の違いが問題になることがある。特に、健診機関が特定保健指導の基準値を採用している場合には厳しい基準で判定されるため、有所見者が増加することになる。
 
3)健診機関ごとの指導内容の違い
 同程度の異常値であっても、経過観察で良い場合から要精密検査、要再検査など、健診機関ごとに指導内容が異なる場合がある。社員と面談することが可能で、検査値の意味や異常の程度を直接説明できる場合には健診機関の判定を変更することは比較的容易である。遠方で直接会えない場合には、健診機関の判定通りに受診を勧めざるを得ない場合もあるが、受診した医療機関で「(この程度の値では)薬物治療の必要はなく、食事に注意して下さい。」程度の指導で終わってしまうことがあり、受診した社員がなぜ受診が必要だったのかと疑問を抱く場合もある。

 以上の様な健康診断に関係する様々な問題を解決していくためには、事業者が健康診断の目的を明確にすることが必要である。その際、健診機関が異なると基準値や指導内容が違ってくることを関係者が理解し、安全衛生委員会等を利用して健康診断の目的や実施内容を社員に周知していく必要があると思われる。
 
(文責)相談員  新津谷 真人
TOPへ戻る