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相談員から一言 バックナンバー

『ナノマテリアルのばく露防止対策について』

今回は、現在、厚生労働省の検討会で検討中のナノマテリアルのばく露防止対策に関する話題をご紹介します。
 
 ナノマテリアルとは、一般的に3次元のうち少なくとも1次元が100nmより小さいものであり、その代表として、フラーレン(炭素原子が60個以上結合している球状またはチューブ状に閉じた構造のもの)、カーボンナノチューブ、酸化チタンナノ粒子などがあります。ナノ粒子は、従来の微粒子(mmサイズの粒子)よりも表面活性が高く、電気学的、光学的に特徴的な物理特性を有しています。そのため、今後、工業分野への利用の急速な拡大に伴い、ナノマテリアルを取扱う労働者数も増加することが見込まれています。
 
 一方で、ナノ粒子は、大きな粒子に比べて、吸入した際に肺胞への沈着率が高いこと、重量当たりの表面積が大きいことなどから、毒性が異なることが報告されています。また、ナノマテリアルには、径が100nm以下と非常に細く、長さはmmサイズと長い繊維も含まれます。このような繊維は、アスベスト繊維のように発がん性が懸念されます。最近、多層カーボンナノチューブをp53遺伝子改変マウス(癌抑制遺伝子p53の1対のうちの片方を欠失させたマウス)に腹腔内投与した結果、アスベストのうち最も発がん性が強いとされるクロシドライトと同様に中皮腫発生が認められたことが報告され、注目を集めています(Takagi, et al. J. Toxicol. Sci. 33(1):105-116, 2008)。
 
 そこで、厚生労働省労働基準局長より、「ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について(基発第0207004号)」という通達が平成20年2月7日付けで出されました。さらに、現在、厚生労働省では、「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」が開催され、ナノマテリアルについて検討されています。
 
 この検討会では、
1.ばく露防止対策の検討にあたっての問題と対策(有害性情報等の不足、ばく露発生の可能性の評価にもとづく対策のランク分け)
2.対策の対象(対象とするナノマテリアルの範囲および労働者)
3.検討すべき対策事項として、作業環境管理(ばく露評価、密閉構造とすべき箇所等、局所排気装置の設置等、排気における除じん措置等)、作業管理(清掃方法、作業場所と外部との汚染防止等、呼吸用保護具の使用と性能要件等)、健康管理、労働(安全)衛生教育等
4.さらなる研究・検討課題について(有害性調査、測定手法、除じんフィルターや呼吸用保護具の性能評価等)
にわけて検討ととりまとめが行われているところです。
詳しくは、厚生労働省の本検討会に関するHPをご覧ください。
 
 また、独立行政法人労働安全衛生総合研究所のHP(http://www.jniosh.go.jp/joho/nano/index.html)にナノマテリアル取扱いについての情報提供として、各国の研究機関のガイドラインのほか、上記に紹介した論文に関する翻訳も掲載されています。
 
相談員(産業医学)髙田礼子
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