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産業保健看護職のひろば

相談員コラム

産業保健職から考える「合理的配慮」とは
2024-01-26

産業保健職から考える「合理的配慮」とは

~私たちができることを考えてみることがはじめの一歩!~

 

相談員 丸山 泰子

 

 昨今、多様な働き方、障害者雇用促進、両立支援が話題になることが日増しに増えています。

 様々な事情や環境により働くことに制限がかかってしまう方、心身の病気や障害で働くことに制限や配慮が必要となる方など、様々な人がみなさんの職場にもいらっしゃると思います。それぞれの理由は、短期・長期含めて一時的なものから、生涯に渡るものまで、はたまた期間なんてわからないものもあると思います。では、雇用側として職場や同僚はどこまで配慮をすればいいのでしょうか。

 よく相談されるのは、復職時です。会社の人事労務担当や復職する社員の上司から、復職する本人から。そして、相談員をしていると、産業保健職の方からもよくご相談を受けます。私も相談を受けながら、いつも悩み一緒に考えています。今日は、その一部を交えながら、考え方のヒントをお話したいなと思います。

 

 まず、どの方にも最初にお伝えすることは、休職していた社員ご本人から復職の意思を伝えられたら、第一声は、ポジティブな回答を発してください。「復職の兆しが見えたんだね、よかったね。」「会社に帰ろうと思ってくれたんだね。ありがとう。」「戻れる環境ができたんだね、お帰りなさい。」でもなんでもよいので、一旦相手の復職の気持ちを受け止めて頂きたいと思います。これは、人事労務や上司からの相談の時のアドバイスでも伝えています。もしかしたら、「こんな忙しい時期に困るな~~」とか「まだ完全回復じゃないから無理じゃないかな」など、思うところはあるかもしれませんが、まずは受け止めてみる。そこから、次のステップがスタートすると思います。

 今回は、産業保健職を主軸におきますので、産業保健職に復職の意思が届いたとしましょう。まずは、そのことを所属長や人事労務担当に伝えることの了承を取りつつ、私は、ご本人からも所属長に連絡をしてみることを提案します。中には、代わりに伝えて欲しいという方もいると思いますが、「上司は直接言われた方が喜ぶよ」とそっと、後押し、それでも不安そうなときは、一緒に伝えませんか、私からも一言いっておきましょうか。と、サポートしてみるのもよいと思います。実際に、復職していくのは、それぞれの上司の下であり、産業保健職の下ではないので、このプロセスは将来的に大事です。

 では、少し飛んで、本題の「合理的配慮」についてです。復職の際に、主治医や本人から、配慮の希望が出た場合。もちろん内容にもよりますが、すべてがすべて会社側で対応できるとは限りません。産業保健職=医療職としては、やさしく手を差し伸べてあげたいと思う気持ちがムクムクと出てくるかもしれませんが、そこはグッとこらえて、一度話を受け取り、復職する職場や人事労務(会社側)と相談をしていただき、みんなで一緒に考えて頂きたいと思います。

病気やケガは好き好んでするものではないため、なんとなく、かわいそうだな~、何とかしたいな~~、場合によっては、合理的配慮だから何とかしないとダメなんじゃないか、と思ってしまう場面もあるかもしれません。

しかし、会社は医療施設やリハビリ施設、職業訓練施設ではないので、すべての希望に配慮ができるとは限りません。また、業種によっては、元の職場、職種には戻れない場合もあると思います。では、その時雇用側や産業保健職としてどうしたらよいのか。肝心なことは、産業保健職は医療・保健的な立場から、社員の安全を考慮して、会社側へアドバイスをし、最終的な判断は会社側(人事労務など)が行うことです。できる配慮とできない配慮があることを念頭に置いて、中立的な立場で対応することが重要です。

 そんなことを書いている私も、大失敗をした経験があります。進行性難病を持つ社員さん。病状は進行し、歩行困難、手指の動きも不自由になっていましたが、なんとか筆談やボードを併用しコミュニケーションも取れ、部署のメンバーのサポートも受けながら勤務を続けていました。しかし、通勤時に転倒をすることが増え、勤務は難しい状況になりました。在宅勤務でできる仕事がない業種のため、人事や所属長から相談を受けました。でも、主治医からも可能な限り体を動かし、機能を衰退させないようにと言われていたことと、職場のメンバーは一緒に働けるように頑張ると言ってくれていたため、私は難色を示し、配慮できることを探そうと提案をしました。お互いが平行線のため、その社員の勤務状況を観察しにいくと、職場では様々な安全配慮の工夫がされており、安全という点からは、やはりこれ以上の通勤は難しく、また、安全配慮をサポートしている部署メンバーの負担が実は大きかったことに気づかされるのです。会社にできる限界を感じると同時に、自分の目で見て、一緒に働くメンバーや人事担当者と一緒に合理的配慮を考えていく重要性を学びました。

 どの企業も、魔法のランプや打ち出の小槌は持っていません。すべての思いに応えることは難しいのです。応えてあげたくてもできないこともあります。それを念頭に置きつつ、本人と相談をし、また職場と相談をし、安全に安心して勤務ができる方法を探してくことが重要だと思います。できること、できないことを医療的に判断でき、アドバイスすることが求められます。時に、厳しい意見を言わねばならないときもありますが、そんな時こそ産業保健職の力の見せどころではないでしょうか。

 

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